吉祥を象徴する神獣に、この地の幸多き未来を託して――。
現代美術作家
現代美術作家
エトリケンジ 氏
Fine Art, Kenji Etori
京都を拠点に、スチールネット素材によるスタイリッシュで生命観あふれる造形作品を制作。国内・海外で作品を多数発表する。その作品の持つ空虚な内部と繊細な外観は人の内面や感情、生命の尊厳を表している。二条城、青蓮院門跡等歴史的空間での展示や2016年パリのマレにて個展開催、2018年コシノヒロコ氏とのコラボレーション展ほか展覧会多数。2023年イタリアフィレンツェ インターナショナル ボッティチェリ賞受賞。2024年イタリアミラノ レオナルド・ダ・ヴィンチ国際賞受賞。
生命の存在感が感じられる作品を、畏敬の念を込めて形づくる。
現在のような作品は、もう20年ほど前から制作しています。もともと油絵を描いていて、悩んでいた時期が長くあったのですが、ある時、インスピレーションというのでしょうか、造形と作り方が同時に頭に降りてきたのです。ワイヤーメッシュを少しずつ手で形成していく技法で、最初は天使や女性像を中心に創っていました。以来、試行錯誤を繰り返しながら、現在ではさまざまなモチーフに取り組んでいます。
どんな作品にしても最初から、生命の存在感、身体性が感じられる作品であることは大事に考えてきましたね。特に現在の科学や技術の発展に疑問を感じるところがあり、本来大切なのは、人や生物が生まれ持った精神と身体だと思うのです。私たちは世界の中にあるのだと。ですから、こうして形を創ることには、常に生命そのものへの畏敬の念を込めています。
光と影による変容、さまざまな借景にも恵まれる立体作品。
この技法による作品は、向こう側が透けて見えるため、置く場所や光によってさまざまな表情を見せる特徴があります。たとえば、室内に置いても、外から入る光が時間によって変化し、見え方が変わります。そして、透けていることから、向こうの影も全部見えて作品が立体的に浮かび上がるんですね。
また、夜の庭や池の中、人のいる街中など、屋外のさまざまなロケーションによっても存在感が変化します。自然の中に置くことにはより思い入れがありますね。これまでにも、二条城、泉涌寺、高台寺など、美しい自然に包まれた寺院という借景にも恵まれてきました。ほか、イタリア、フランスなど海外の街にも溶け込みながらまた違った表情を見せて面白かったです。
龍、鳳凰、玄武と、古来の吉祥の霊獣に込めた想い。
このたび、このエントランス・ギャラリーに制作させていただいたのは、全部、中国から日本に伝わった架空の神獣です。「龍」は水を司り発展を象徴している。「鳳凰」は徳の高い天子の誕生をしらせる幸運の兆し。亀の異名である「玄武」は、硬い甲羅から強さの象徴です。この場所とここに暮らす人々の幸多きことを願いつつ、日々のなかでふと作品の前で足を止めて、時間による光の変化を感じて欲しい。そして、いつも心に落ち着きを取り戻していただけたらうれしく思います。
マンションのエントランスという無機質になりがちな空間に、このようなギャラリーをしつらえる取り組みは素晴らしいですね。作品の背景のクロスの選定や足元の玉砂利など、作品に踏み込んでともに空間を創ってくださってとても感謝しています。