制作の原点——時のうつろいを胸に抱きながら
京都の豊かな四季折々の自然と文化を感じて生まれ育った幼少期と、東京、神戸での多忙なマスコミ勤務時代。この相反する体験が、私の制作の原点にあります。現代社会における時間の流れ方や環境破壊、紛争、近視眼的なモノの見方に疑問を持ち、自然への敬意を軸に「人は自然の一部である」を制作のコンセプトとしています。
生から死へと向かう命のゆらぎ。その“一瞬のうつろい”を、ガラスという儚い素材でどうとどめられるのか。
作品はコンセプトから始まり、キルンワークを中心に、ホットワーク(宙吹き)、バーナーワーク、カット(切子)、サンドブラスト、時には陶芸まで、必要と感じればどんな技法も使います。様々な技法を用いることで、造形と色彩、テクスチャーの幅が広がりますし、窯の温度の微妙な差で表情が変わるガラスの特性は、手間がかかる一方で、唯一無二の景色を生み出してくれます。そして、思うのです。ガラスはあくまで素材のひとつにすぎない、と。これからも、心の奥に浮かぶ光景にふさわしい素材や表現に、ためらわず挑戦していきたいと思っています。
アートが心をつなぐ瞬間が、制作の糧になる
高台寺圓徳院での2か月間の個展は、私にとって特別な時間でした。気づけば、国内外から一万人を超える方々が足を運んでくださっていました。
作品の前で涙を流したカナダの女性。「月の作品を娘に贈りたい」と語ってくれたオーストラリアのお母さん。「空(くう)」の思想、書画に自分自身の想いを重ねて感動してくれたドイツのご夫婦や、アメリカの男性。どの出会いも、鮮やかに記憶に残っています。
一観光客としてお寺をただ訪れた方が、私やお寺の方が接客しているわけではないのに、純粋に作品だけをご覧になり、その奥に込めた思いに深く共鳴してくださった。それは、私がずっと求めてきた “アートを通した純粋なコミュニケーション” そのものでした。
そうした出会いの積み重ねが、今の私をまた次の制作へと向かわせてくれています。
水の気配、光のゆらぎをガラスにとどめて
そして今回、幼少期を過ごし、一度は離れ、いま再び拠点として活動を支えてくれている京都で、常設展示の機会をいただきました。
私が選んだのは、水面の波紋やゆらぎをテーマにした 「Water Shadow」シリーズ。鴨川や桂川の水の恵みに育まれ、雅やかな文化を育ててきたこの京都で、暮らしの中にもその余韻をそっと感じてもらえたら-。自然光のもとでは、時間とともに光と影が静かに変化し、照明のもとでは、反射が宝石のようにきらめき、表情が次々と変わる。日々の忙しさからふと離れ、光の移ろいに心を預ける瞬間。そのわずかな“ゆとり”が、人の心に潤いと輝きをもたらしてくれる——私はそう信じています。
この空間が、訪れる方々にとって、そんな穏やかな時間をもたらす場になりますように。
Collaboration ガラス作家 野田 朗子 氏 の参加物件




